約 1,207,366 件
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/1063.html
【10月1日】 『世界を愛する少女たち』 ラブ 「今日は、みんなで幸せゲットだよ!」 祈里 「ラブちゃんってすごい」 ラブ 「どうして?」 祈里 「今日はいいことありますようにって、お願いする人はいるけれど」 美希 「なるほど、みんなにいいことありますようにって、お願いする人は少ないでしょうね」 せつな「だから、ラブの周りの人はみんな幸せなのね」 ラブ 「美希たんもブッキーもせつなも、口にしないだけで同じこと考えてると思うよ」 タルト「せやから、あんさんらがプリキュアに選ばれたんやろうなあ」 【10月2日】 『衣装は自分で作ることにしたの』 祈里 「学園祭のお芝居で、わたし、白雪姫をやることになったの。緊張しちゃう」 ラブ 「い~なぁ~! ブッキーの演じる白雪姫。想像しただけでワクワクするよ」 せつな「白詰草女子学院の学園祭というと、全員が女の子ね。王子様も女の子が演じるの?」 美希 「そうなるでしょうね、華やかな舞台になりそうね。アタシも楽しみ」 祈里 「美希ちゃんが王子さまやってくれたらいいのに」 美希 「学校が違うでしょ。でも、引っ込み思案のブッキーが主役引き受けるなんてね」 祈里 「みんなのおかげで変われたの。だから、恥ずかしいけど見に来てね」 ラ美せ『もちろん!』 【10月3日】 『人気番組』 キュアベリー「ブルーのハートは希望の印! 摘みたて・フレッシュ・キュアベリー!!」 ウエスター 「出たな、プリキュアのお笑い担当めッ!」 キュアベリー「ちょっと! 誰がお笑い担当よっ!」 ウエスター 「だが! ラビリンス芸人の面子にかけて、ここは負けられん!」 キュアベリー「そんな勝負しないって言ってるでしょうがっ!!」 ラブ 「美希たん、がんばれー!」 美希 「だから、応援しないでったら!」 祈里 「テレビドラマ化は仕方ないとして、ずいぶん脚色されちゃったね」 せつな「とにかく、イースの出番がありませんように……」 【10月4日】 『熟れたてフレッシュ』 せつな「秋って美味しい食べ物がいっぱいなのね! とっても幸せ!」 ラブ 「今夜の食後のデザートは柿だよ!」 せつな「昨日の梨も美味しかったけど、この柿もとっても美味しいわ」 あゆみ「リンゴも旬なのよ。明日は栗を買ってきて、栗ごはんにしましょうね」 せつな「夏に桃を食べた時は、こんなに美味しい果物は他にないと思ったのに、なんだか不思議ね」 あゆみ「その季節に取れる果物が、一番美味しく感じられるものなのよ」 【10月5日】『天高く馬肥ゆる秋』 タルト「なんや、やたらにお腹が空くなぁ……。きっと秋になったせいやな」 ラブ 「ホントッ! ご飯が美味しいよね!」 せつな「ラブ、食べすぎよ。タルトは……。冬眠の準備でもしてるの?」 タルト「そうそう、冬が来るまでに脂肪を蓄えとかんとな! って誰が冬眠やねん!」 【10月6日】 『美味しいおやつの召し上がり方』 祈里「今日のおやつは、大好きなロールケーキなの」 祈里「駅前の人気のケーキ屋さん。ふわふわでクリームたっぷりなの」 祈里「フルーツも入ってるのよ」 祈里「みんな、何してるのかな……」 祈里「もしもし、美希ちゃん? 美味しいロールケーキがあるの。うん、待ってるね」 【10月7日】 『ファッションの魅力』 美希 「今日は可愛いワンピースを着て、読者モデルの撮影よ!」 せつな「私、以前はモデルの意味がわからなかったの。何をしてるんだろうって」 美希 「そっか、ラビリンスの人たちは、みんな同じ格好をしていたわね」 せつな「人は、一人一人違う。だから素晴らしいんだって。モデルはその象徴なのね」 美希 「そこまで考えてやってるわけじゃないけど、ありがとう、せつな」 【10月8日】 『人気者です』 せつな「もうすぐ運動会があるの。リレーの選手に選ばれちゃった!」 美希 「せつななら、大活躍間違いなしね」 祈里 「わたしも応援するね」 ラブ 「応援席の確保、大変だよ?」 美・祈「どうして?」 親衛隊『東さん、がんばれ―!!!!』 美・祈「学校中の男子が集まってくるのね……」 【10月9日】 『食事という名の幸せ』 シフォン「シフォンおなか空いたぁ~。ラブごはーん!」 ラブ 「ハイ、ハ~イッ! 今日はクリームシチューだよ。はい、あーん」 せつな「ラブは作るのも、食べるのも、食べさせてあげるのも、全部楽しそうね」 ラブ 「うんっ! 美味しいものを食べるとね、必ずみんな笑顔になるんだよ!」 せつな「なるほど。食事は、全ての人に共通した趣味なのね」 【10月10日】 『明日は運動会』 ウエスター「サウラー、俺と駆けっこしないか?」 サウラー 「フッフッフッ。まさか、僕に勝てると思ってるのかい、ウエスター君?」 ウエスター「よし! では、勝負だ!」 サウラー 「しかし、男二人で駆けっこってのもなんだか空しいね」 ウエスター「なるほど、まかせておけ」 ウエスター「もしもし、イースか? 今から駆けっこするぞ。アカルンで館まで来い」 せつな 「行・か・な・い。くだらないことで電話してこないで!」 ラブ 「どうしたの? せつな。誰からだったの?」 せつな 「イタズラ電話よ。さあ、運動会の練習しましょう!」 新-477へ
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/299.html
翼をもがれた鳥 第11話――暗闇の中で―― 四つ葉町の森の丘陵、その上空に突如赤い閃光が迸る。 光は一瞬で収まり、そこから四つの人影が投げ出される。 数メートルの高度からの落下。加速も伴っており、衝突に近い形で地面に叩きつけられる。 「イタタ……ここはどこ? っていうか、なんであたし変身解けてるんだろう?」 「アタシもブッキーもよ。何が起こったというの?」 「多分、アカルンが何かしたんだと思う」 「……あの遠くに見えるのは、館ね」 占い館の地下で繰り広げられた、勝ち目の無い戦い。 危うく爆発に巻き込まれるところだった。絶体絶命の窮地を救った赤い光。 それは、イースをエスポワールシャワーから守った光と同質の力のように見えた。 祈里は懐を探る。しかし、入れていたはずのアカルンの姿は無かった。 転移と同時にプリキュアの変身は解除され、イースだけが戦闘形態のまま残された。 イースは現状よりも館の様子が気になるのか、険しい表情で見つめる。 ほどなく館は、それが蜃気楼であったかのように消失した。 「消えちゃったね、せつな。壊れてなくなったの?」 「……違うわ、あれは隠蔽モードを起動させたのよ。ゲージと館の破壊は失敗よ」 「まあ、みんな無事なんだし、ひとまず結果オーライよね」 「良かったね。でも、アカルンはどこに行ったのかな?」 「オーライですって! もう同じ手段で潜入はできないのよ!」 美希と祈里の安堵の声に、イースが喰ってかかる。激しい憤りと悔しさをあらわにする。 ムッとする美希と、びっくりして目を丸くする祈里。 すかさずラブが割って入る。イースもすぐに謝った。 二人に当たるのは筋違いだと気が付く。失敗したのは自分なのだから。 「とにかく今日は帰ろう。全員が無事だったことだけは、喜んでいいと思うんだ」 「そうね、帰りましょう」 「うん、本当に良かった」 「――そうね」 「待って! どこに行くの、せつな。一緒に帰ろう」 「帰る? 私が……どこに?」 「おかあさんが言ってたの。せつなが元気になったら家に連れて来たらいいって」 背を向けて立ち去ろうとしていたイースが振り返る。 一瞬驚いた表情をして、やがて静かに首を振った。繋がれたラブの手をそっと振りほどく。 「私はあなたたちと一緒には行けないわ。この手で、壊してきた街なのよ」 「だから――それは!」 「任務で潜入することならできる。でも、今さら好意にすがるなんて……許されるわけないわ」 「ラブが、どんな思いであなたを助けようとしたのかわかってるの?」 「行くところ、ないんでしょ? せつなさん……」 「わかってる……。よく、わかってるわ。でも、私は――幸せになってはいけないの」 イースはラブたちに向き合ったまま後ずさり、背中から落ちるように崖から飛び降りた。 高さは二十メートル以上、生身で追いかけられる地形ではない。 そのまま森の中に落ちて、姿も見失った。 ラブの、絶叫だけを残して―― 『翼をもがれた鳥――暗闇の中で――』 懸命に探したにもかかわらず、せつなの行方はわからなかった。 イースの姿のままだったから、怪我をしていないのは確かだった。それだけが救いだった。 ラブが家に帰ったのは、夜遅くになってからだった。 今日一日、色々なことがありすぎた。心の余裕がなくて、連絡を怠ったのが失敗だった。 家の中はちょっとした騒ぎだった。 仕事を終えて病院に向かったあゆみが見たものは、空っぽの病室と―― ゴミ箱の中に、散り散りに破り捨てられた手紙。 やっとの苦労で繋ぎ合わせて、更に驚愕する。それは――遺書にも似た内容だった。 すぐに警察に捜索願いを出す。仕事を早退してきた圭太郎と懸命に心当たりを回る。 絶望的な想いで一旦家に帰って来た。その直後のラブの帰宅だった。 「何があったのかは、どうしても話せないんだな?」 「ごめんなさい……。あたしは間違ったことはしていない。それしか言えないの」 「わかった。信じよう」 「おとうさんっ!」 真っ青な顔であゆみは圭太郎に詰め寄る。しかし、結局あゆみもラブに強く問い正すことはできなかった。 手紙に書かれた真剣な想い。命すら賭ける覚悟。それを――知っていたから。 「それで、せつなちゃんはどうしたの?」 「いなくなっちゃったの。どこに行ったのかわからないの。だから、探さないと!」 「もう遅い、僕が行ってこよう。ラブは食事を取って休みなさい」 「ごはん……。せつなも食べてないのに食べられないよ! 行かなきゃ!」 「わたしが一緒に行くわ。おとうさんだけじゃ、せつなちゃんの顔がわからないし」 ラブに無理やり食事を取らせてから、もう一度三人で探しに出ることにした。 その捜索は深夜まで続いたが、結局見つけることはできなかった。 日の沈んだ、暗い森の中を少女は歩く。 その手には何も持たず。 その瞳には何も宿さず。 その足取りは、目的地すら持たず。 その心に、深い悲しみと後悔を宿して。 やがて、森を抜ける。 視界一杯に広がる美しい草原。 木々に覆われ、一筋の光も差さなかった夜空。 今は満天の星々の輝きと、緩やかな月の光に照らされて。 足元には一面のクローバーの花が咲き乱れる。 暗く深い森にも出口はあって、その先には優しい風景が広がっている。 ほんの少しだけ救われた気がして、その日はそこで一夜を明かすことにした。 一輪の花を摘み取った。 クローバー。シロツメクサの白い花。花言葉は―― “幸せ” 私が奪ってきたもの。 私が望んできたもの。 私には届かないもの。 私には、求める資格のないもの。 ありもしないペンダントを求めて胸に手をあてる。 クローバーの草のベッドに倒れこむ。瞳に熱いものが浮かび、星空が歪む。 せつなは両手で顔を隠すようにして眠りに付いた。 眩しい朝の日差しを浴びて、せつなは目を覚ました。 夢を――見た。 ラビリンスにいた頃の夢だった。 同じ服装の人々。感情を宿さず、自らの意思を持たず。ただ、与えられた役目を黙々とこなす。 まるで、ラビリンスという国家を形作る部品であるかのように。 その中に自分も居る。いや――かつて、居た。 次々に新しい部品が作られ、役に立たなくなった部品は廃棄される。 寿命と、人口の管理の名の下に。 それは嫌だった。それは寂しかった。それは悲しかった。 だから――特別な部品になろうとした。 優秀な道具としてでいいから――愛されたかった。 そんな願いも、望みも失われてしまった。いや、自らの手で断ち切った。 今の私は、壊れた部品。 どこにも適合することのない、壊れた部品。 「ねえ、せつな。せつなの幸せは何?」 どこからか、声が聞こえたような気がした。 「今からでも、きっとやりなおせるよ!」 声のする方に足を進める。その先に一筋の光が見えた。 それは煌くアクセサリー。四葉をモチーフにしたペンダント。 ラブからもらった幸せの素に、自らの手でチェーンを付けたもの。 そっと持ち上げる。手のひらに乗せる。 触れたとたんに、粉々に砕けて、風に飛ばされて散っていく。 わかっていた。夢の中なのに、こうなることはわかっていた。 一欠片も残らなかった。やっぱり――私の手には何も残らなかった。 「行ってみよう……」 昨日の朝に病室を出て、丸一日何も食べていないことになる。 お腹は空いていたが、以前のように体が痛むわけではない。 (このくらい、どうということはない) ポケットを探る。お金は持っていなかった。 入っているのは、一組のトランプだけ。 わかっている。何も無いのはわかっている。 でも、昨日とは違う。一つだけ違う。 今の私には、目的地があるのだから。 せつなは、しっかりとした足取りで歩き出した。 四ツ葉町を発って半日ほど過ぎた。遠くに目指す建物が見えてくる。 そこは壊れたドーム。自分が壊したドームだった。 初めて正体を明かし、ラブと向かい合った場所だった。 大切にしていた幸せの素を、自らの手で砕いた場所だった。 建物はバリケードで覆われ、立ち入り禁止の看板が高々と掲げられていた。 瓦礫撤去の工事が巨大な重機で進められる。 まだ、それは入り口の方だけ。中は手を付けられていないようだった。 せつなは、作業員やガードマンの目に付かないように侵入を開始した。 バリケードを飛び越えて、姿勢を低くしたまま駆け抜ける。 ドームの観客席に出る。惨状と呼ぶに相応しい徹底的な破壊の爪痕。 どれくらいの人々が、コンサートを楽しみにしていたのだろう。 誰と一緒に来て、どんな夢を描いていたんだろう。 ラブも、楽しみにしていた。 していたのに……私の看病を優先して、病室でテレビを見ていた。 そんなラブの夢を砕いたんだ……。コンサート会場ごと――私が!! せつなは唇を噛みながら走り出した。 目的の場所は――もう、すぐそこだったから! 「この辺りだったはず……」 椅子の下、通路の隅、目を凝らして必死に探す。 風に飛ばされてしまったのか、チェーンすら見つけることができない。 何をやっているのだろうと思う。 仮に見つかったところで、元の形に直るわけじゃないのに。 壊れてしまったものが、元の姿に戻るはずなんてないのに。 戻ったところで、それで私の罪が許されるわけではないのに。 それでも、見つけたかった。何か、名残でもいいから手にしたかった。 何も――無いのは寂しかった。 そして、視界の先に緑色に煌く欠片を捉える。 「あった……。あった、あったんだ……」 そっと、手のひらに乗せてみる。 割れた破片の一つ。かろうじてハートの形をとどめていた。 今度は、砕けて消えることはなかった。それを両手で大切に握りしめた。 まるで――懺悔するように。 何かに――祈りでも捧げるように。 せつなが再び四ツ葉町に帰って来た頃には、もう夜もふけていた。 都合がいいと思った。まだ、見ておきたいものがあったから。 これで二日が過ぎた。髪も、服装も、自信が無かった。 もう、昼間に街を歩けば人目に付くかもしれない。 記憶を辿り、一つ一つ廻っていく。 自分が壊した街並みを。破壊の痕跡を。 ジュースの水流で壊した喫茶店。結婚式場にテレビ局。いくつかのダンス会場。 中には完全に修理されていたものもあった。 壊れたままでも、営業を開始していた店もあった。 修理の目処がつかないまま、放置されている建物もあった。 ズキン ズキン ズキン ズキン ズキン ズキン ズキン ズキン 心が痛い。胸が苦しい。喚き声をあげて、逃げ出したいような気持ちに駆られる。 それでも、ちゃんと見ておきたかった。それが、今の自分にできるたった一つのことだったから。 そして、足がクローバータウンストリートの大通りに伸びる。 そこの一角に、赤と白の看板が並ぶ。(通行禁止)(危険・立ち入り禁止)横に迂回路が設けられる。 ラブが、とても大切にしている場所だった。 ラブと、初めて街で出会った場所だった。 ラブと、最後に戦った場所だった。 強力な炎によって溶かされたアスファルト。怪力でなぎ払われたお店の数々。 半壊のまま放置されているお店。下手くそな応急処置で、なんとか営業を再開しようとしているお店。 閉店と売却の張り紙が張られているお店もあった。 大きな建物ではないだけに、決して豊かな人たちのお店ではないだけに、よけいに悲しかった。 せつなの瞳に、とめどなく涙が溢れては流れ落ちる。 そして、座り込んで号泣した。 少し離れたところにある、公園のブランコに腰をかける。 時刻はそろそろ日付が変わる頃。怪しむような人通りもなかった。 そこも、ラブに案内してもらったところ。ラブが小さい頃に遊んだ場所。 蒸し暑い夜だった。ベトついた汗で、下着がへばりついて気持ち悪かった。 少しでも風が欲しくなって、ブランコを動かす。その時、ゾワッとせつなの背筋に悪寒が走る。 せつなの戦士としての本能が、迫る危険を察知したのだった。 「童心にでも帰ってるのかい? もっとも、僕達にそんな経験なんてあるはずもないが」 「サウラー……。決着を付けに来たというわけ?」 「そういう指令は確かに出ている。寿命の尽きた君が歩き回るのは好ましくないが……」 「はっきり言ったらどうなの?」 「もうわかったはずだ。この世界に君の居場所は無い」 サウラーは、ゆっくりせつなとの距離を縮めながら話しかける。 意思の力だけで、寿命管理の支配を解き放った。これは脅威であると同時に、評価の対象でもあると。 拘束を受け入れ、自らの意思でラビリンスに戻るならば、寿命も延ばしてもらえるかもしれないと。 「断ると言ったら?」 「ここで僕と戦うことになるね。今の君の体の状態で、勝ち目があると思うかい?」 サウラーが更に詰め寄る。同じだけせつなは下がる。頭の中では必死に計算を働かせていた。 ここで捕まれば、また占い館に入ることができるだろう。しかし、前回とは状況が違う。 当然、警戒されているだろう。拘束されて、変身もできないだろう。 本国に送られれば、洗脳されて、ラブの敵に仕立て上げられるかもしれない。 メリット無しと判断して、戦う決意を固める。その時だった。更に二つの気配が近づいてきた。 「せつなちゃん!」 「君がせつなちゃんか? そこの男! その子から離れるんだ!!」 「あなたたちは?」 「ラブの父親と母親よ。話は後で、早く逃げなさい!」 姿を見れば、相手がラビリンスの幹部であることはわかるはずだった。 それなのに、駆けつけてきた男の人はサウラーにしがみつく。 ラブの母親を名乗った女の人は、せつなをかばうように前に出て立ち塞がった。 敵うはずなんて――ないのに。 「ダメよっ! 早く逃げて! 人間に太刀打ちできる相手じゃないわ!」 「あなたこそ逃げなさい! 時間だけでも稼ぐから、早くっ!」 「とても不愉快だよ。命令でなければ誰がこんな仕事するものか」 「ぐあっ!」 サウラーは軽々と男の手を引き剥がす。そして、ゴミでも捨てるかのように無造作に投げた。 男の人はそのまま気を失う。そして次の障害物である、女の人に歩み寄る。 「おとうさんっ!」 「どきたまえ、無力の者をいたぶる趣味はない」 「誰が――どくものですか!」 「ならば、悪く思わないでほしい」 「きゃあ!」 サウラーは女の人の肩に手を添えて、軽く横に払った。彼にしてみれば限界まで加減したつもりだった。 しかし、それだけで地面に叩きつけられて気を失う。 「しっかり……しっかりしてください!」 自分が庇われている。その状況が理解できなかった。それで反応が遅れてしまった。 なぜ? 何のためにこの人たちはこんなことをしているの? 生まれて初めて、ラブ以外の人から向けられた純粋な好意。優しさ。思いやり。愛情だった。 女の人の額から、一筋の血が流れ落ちる。 ――ゾクリ。 せつなの背筋から、脳に向かって何かが駆け上る。 それは悲しさ。それは悔しさ。それは怒り。 それらが一つに結びつき、全身を焦がす激しい感情となる。 それは――憎悪。 よくも――よくも! よくも――よくも――よくも! よくも――よくも――よくも――よくも! 倒れた二人の男女の姿が、砕け散った幸せの素と重なる。 せつなの中で、破壊された街並みと重なって映る。 これが、幸せを奪うということ。 これが、私が今までやってきたこと。 これが、彼らがこの先も続けていくこと。 許せない!――絶対に――許さない!! 私には、何もないなんて嘘だ! 私には、戦うための力がある! “スイッチ・オーバー” 立ち上がり、手を合わせて――開く! 全身に電流が駆け巡る。体内の細胞が、戦うための配列に切り替わる。 黒髪は白銀の輝きを宿し、夜空に浮かぶ月のような純白の衣に覆われる。 運命を自らの意思で切り開いた証。イースが手にした新しき力。大空を翔ける自由なる翼。 その力が、今、弱き者を守るために揮われる。 赤い瞳が憎悪に燃える。それはサウラーに対する怒りだけではない。 過去の自分に対して! 助けてあげられなかった。今の、自分に対して! そして、幸せを奪う理不尽な暴力。管理国家ラビリンスの、存在そのものに対して!! 「疲れた体に、冷静さを失った頭か。やめたまえ、そんな状態で僕に、グボッ!」 「その不愉快な口を、永遠に黙らせてあげるわ!」 飛翔を思わせるような、超高速の踏み込みから放った拳がサウラーの腹部に突き刺さる。 間髪入れずに放つ回し蹴りが頭部を襲う。サウラーはかろうじてガードして後退する。 しかし、その背後にはイースが廻り込んでいた。 上下左右から、拳が、膝が、蹴りが、逃げ場など与えないと言わんばかりに牙をむく。 「バカ……な。この前よりも強くなっているだと!」 「心が生み出す力。あなたたちには決して理解できない力よ!」 イースが更に追撃を加えようとする。そして、サウラーがナケワメーケを呼び出そうとしていた時だった。 ラブがせつなの名を呼びながら駆け寄ってきた。その手にはリンクルンが握られている。 「ここは引いた方が良さそうだね。この借りは必ず返させてもらうよ」 「クッ、待て!」 イースは一瞬サウラーを追いかけようとして、踏みとどまった。 今は、傷付いた二人の介抱が先だと思ったからだ。 簡単にラブに事情を話す。ラブもまた、イースに経緯を伝えた。 ラブは時間が遅いため留守番していたが、連絡が途絶えたので見に来たらしい。 イースは変身を解除して、あゆみの介抱に当たる。 ラブは圭太郎を看た。すぐに目を覚まし、特に怪我はないようだった。 あゆみは頭に小さな傷を負っていた。濡らしたハンカチを額にかけたら気が付いた。 「おばさま、大丈夫ですか? 傷は痛みますか?」 「せつなちゃん! 怪我はない?」 「怪我をしてるのはおばさまです。でも、ありがとう」 「そう。良かった」 「僕は無事だ。もちろんラブもね」 「もう、おかあさん。心配したんだから!」 せつなは丁寧に圭太郎とあゆみにお礼を言ってから、背を向けて去ろうとする。 その手がしっかりとつかまれる。それも予想していたことだった。 払おうと振り返り――そのまま抱き寄せられた。 その手はラブではなく、あゆみだった。 「おばさま?」 「家にいらっしゃい、せつなちゃん」 「そうだ。行くところがないなら家に来るといい」 「せつな……お願い!」 理性が拒絶を命令する。 自分にはそんな資格はない。断るべきだと。 でも、温かかった。 抗えないほどに、心地良かった。 突き放すなんてできないほどに、嬉しかった。 「私は、幸せになっては、いけないような気がするんです」 「そんな子いないのよ。ひとつひとつ、やり直していけばいいの」 あゆみは、さらにせつなを抱きしめる腕に力を入れる。 決して離さない。そう主張しているかのように。 せつなの髪に顔をうずめるように、頭を寄せてくる。 汚れているはずなのに、そんなこと気にする風もなく、強く――強く―― 「はい」 せつなは、たった一言だけ、そう答えた。 そして、あゆみの腕の中で泣き崩れた。 その日から――桃園家に新しい家族が加わった。 第12話 翼をもがれた鳥――帰るべき場所――へ続く
https://w.atwiki.jp/kinakoyarupoke/pages/43.html
[ギミック用アイテム] [ギミック用アイテム] - クリックして展開 【アイテム】名 買値 売値 説明文 〘かなめいし〙 非売品 001050(円) 「これがないと石の塔が崩れてしまう大事な石。ときどき石から声が聞こえる。」
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/35.html
ラブ「最近ipodお気に入りだね♪」 せつな「え!?な、何で知ってるの???」 ラブ「この桃園ラブ様はなーんでもお見通しなのだぁ~♪」 ちょっと困惑気味のせつな。どことなく頬は薄ピンク色に染まり。 ラブ「で、何聞いてるの?」 興味心身、まるで子供のようにせつなを覗き込む。 せつな「・・・。ハッピーカムカム/// 」 と小声で呟くと、そっとipodを取り出してイヤホンをラブの耳へ。 ラブ「何か照れるなぁ///」 歌声はせつなの鼓動も届けてくれた訳であり。。。
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/471.html
「お母さん、これでいいの?」 「そうそう。上手よ、せっちゃん」 せつなが、まな板の上で形良く切り揃えたニンジンを見せると、あゆみは軽く頷いて彼女を褒める。そのたった一言が 嬉しいのか、せつなは明るく笑って。 「ラブも、せっちゃんが作るんですもの。ちゃんと食べるわよねー?」 「え――――? あ、うん。もちろんだよ!!」 そんな彼女の横顔を見ていたラブは、不意にあゆみに話しかけられ、慌てて頷く。その彼女の様子に、せつなは不思 議そうな顔をして、 「どうかしたの、ラブ? なんだか、ボンヤリしてるみたいだけれど」 「そ、そうかな? そんなこと、無いと思うんだけど」 アハハ、と笑いながら、ラブはピーマンを二つに割って、ひき肉を詰める。が、その視線はついつい、せつなの方へと 向かってしまって。 彼女は、あゆみと笑いながら話している。料理の仕方を熱心に聞きながら、一つ一つ、それを試している。今も、出来 上がったばかりのお味噌汁の味見をしてもらい、褒められて喜んでいる。 いつものこと、と言ってしまえばそれまでだ。ラブにとっては、見慣れた光景でもある。 けれど――――何故か、落ち着かない。 それは、彼女がさっき、誰にも行き先を告げずに、部屋から急にいなくなったからかもしれない。携帯も繋がらず、ラブ は慌ててあちこちを探し回った。ようやく電話が通じて、あゆみと一緒だったと知った時は、安堵すると同時に、少し怒り を感じてしまった。心配したんだから、と。 だが―――― せつなと再会した瞬間、また、不安になった。 何故かは、わからない。わからないが――――彼女を見ていると、何かが違う気がしたのだ。 それが何かを、彼女は説明することが出来ない。自分にさえも。だから、せつなに対して何も言えない。 せつなはいつも通りだ。いつも通りの、筈なのだ。 なのに―――― 「せつな」 御飯の後、お風呂上りの彼女を、ラブは捕まえる。髪をバスタオルで拭きながら階段を上がってきたせつなは、急に 腕を掴まれて、驚きの表情を見せた。 「どうしたの、ラブ?」 「せつな――――せつなは、いなくなったりしないよね?」 ラブのストレートな問いかけに、彼女は一瞬、目を丸くする。そして、 「やだ、どうしたの、ラブ。急にそんなこと言って――――ああ、わかった。さっき、何も言わずに出かけたこと、まだ怒っ てるんでしょ? あれは、忘れ物を取りに学校に行ってただけよ。休みだけど学校が開いてるのは知ってたから―― ――けど、閉門の時間が近かったでしょ? だから、アカルンを使っただけ。あんまりズルは良くないから、帰りは歩い て帰ってきたんだけど」 その説明を聞くのは、二度目だ。さっきと同じことを、せつなは言っている。 だからといって、不安が消える訳ではない。けれど、それ以上に聞くことも、出来ない。 「ほら、ラブ。明日もお休みだけど、あんまり遅くまで起きてないで、早く寝ましょ」 「うん――――わかった。おやすみ、せつな」 「おやすみ、ラブ」 ニッコリと笑って、せつなは自分の部屋に入る。それを見て、ラブも部屋に戻ろうとして、 「あ・・・・・・」 振り返る。それは、気付いたから。 彼女が――――せつなが、自分の問いかけに、肯定の返事をしなかったことに。 不安が、少女の心を苛む。 ベッドに横になって目を閉じても、心の奥がざわついて、眠れない。 せつな――――どうしたの? 壁を一つ、挟んだ向こうに眠る彼女の心が、わからない。こんなに、近くにいるのに。 それでも、やがてまどろみがラブの瞳に訪れて。 彼女は、落ちていく。柔らかな眠りの世界へと。 翌朝。 せつなの姿は、部屋になかった。 家の中の、どこにも、いなかった。 ただ、守るために ただ、救うために 変なところで、鋭いのよね。 ラブに言われた言葉を心の中で反芻しながら、せつなは苦笑する。 急にいなくなったりしないか、と問われて、正直、かなり驚いた。まさに彼女は、そうするつもりだったから。 しかし、その動揺も、隠し切ることが出来た。嘘を付くのが嫌だったから、うん、とは言わなかった。けれど、本当のこと を、言うつもりもなかった。だから、あんなことを言った。 自分にしては饒舌だったかもしれない。けれど、なんとかラブを誤魔化すことが出来た。釈然としなかったようで、今も まだ、隣の部屋でまんじりともせず寝返りを打っているけれど。 この様子だと、今晩じゃなくて、明日の早朝の方がいいわね。そう考えて、彼女は目を閉じる。 脳裏を過ぎるのは、楽しかった時間。 まだ冬の気配が残る春先に、ラブと出会った。占いの館に迷い込んできた彼女との偶然の出会いが、私の運命を変 えた。 ラブを通して、美希やブッキーとも出会えた。最初は自分のことを疑っていた彼女達。でも、今では大切な友達。 そして、生まれ変わったばかりの頃、幸せになってはいけない気がして、町をさまよっていた、そんな自分に、見ず 知らずの自分に、声をかけてくれた、お母さん。 一つ一つやり直していけばいい、そう言って、お父さんと共に、自分を受け入れてくれた。 行き場を失った自分に、居場所を与えてくれた。学校にも通わせてくれた。料理を教えてくれて、プレゼントもくれた。 大切な娘だと、言ってくれた。 やだ。どうして泣いてるの。私。 閉じた瞳から、つぅっと涙が頬を伝う。楽しいことを思い出しているのに、私は笑っているのに、どうして。 やがて彼女は、浅い眠りに付き、そして目覚める。 時計の針は、彼女が起きようとしていた時間ピッタリだ。このあたりは、かつて、兵士として厳しく鍛えられていた頃の 経験が活きている。 カーテンの向こうの空は、まだ薄暗い。秋も深まるこの頃、街はまだ目覚めていないだろう。当然、ラブも、あゆみや 圭太郎も。 静かに、服を着替える。そのどれもが、あゆみに買ってもらったもの。ラブと一緒に選んだもの。 また泣きそうになるのを抑えて、そっと廊下に出て、ラブの部屋に向かう。 少女は、畳のベッドの上で、健やかな寝息をたてている。その顔を見て、小さく微笑んで、せつなは机の上に眠るシ フォンに手を伸ばした。 「キュ、ア?」 「シーッ。静かに」 まだ半分眠った目で見上げてくるシフォンを抱き上げながら、せつなは逆の人差し指を唇に当てながら、安心させる ように小さく笑って見せた。そして、キョトンとした表情を見せながら首を傾げる彼女を胸に抱きしめる。ギュッ、と。 「セツ・・・・・・ナ?」 小さな声で、不思議そうに彼女の名前を呼ぶシフォン。その耳元に、せつなは口を近づけて、囁いた。 「ごめんね、シフォン――――ごめんなさい」 そして、せつなはこっそりと、誰にも気付かれぬように、家を出る。 アカルンは、使わない。ほんの少しでも、あの場所に行くのを、後にしたかったから。 胸に、布でくるんだ包みを抱えて、せつなは家を見上げる。 ほんの少しの間だけれど、暮らしたこの場所。大切な、私の家。 「行ってきます」 最後に一度、そう口にして、彼女は背を向ける。 そして、振り向くことなく、歩んでいった。 「落ち着いて、ラブ」 『でも、でも・・・・・・!!』 電話越しの親友の声に、美希は眠い目をこすりながら答える。時計を見れば、まだ早朝と言って良い時間だ。昨日、 少し遅くまで起きてしまっていたから、今日はゆっくりと寝ていたかったのだが、ラブからの電話にたたき起こされたのだ。 『せつな、何にも言わずにいなくなっちゃったんだよ!?』 「だから、いなくなったって言っても、ただ外に出てるだけかもしれないじゃない。あたしだって、不断ならこの時間に ランニングしてるし、ブッキーだって動物を散歩させてるもの。せつなだって、寝れないから、体を動かそうって思った のかもしれないじゃない」 ふわぁ、と欠伸を噛み殺しながら、美希はベッドから起き上がる。 ホント、ラブはせつなのこととなると目の色が変わるわね。そんなことを思う。少し、過保護なぐらいだ、と。 「もう少し、待ってみたら? 案外、急に帰ってくるかもしれないじゃない」 『でも・・・・・・携帯が、繋がらないの』 「昨日もそんなこと言ってたけど、ただマナーモードにしてて気付かなかっただけなんでしょう?」 そう。昨日もラブから、せつなを知らないか、という電話があった。彼女は、とっても焦った様子で、何事かと思った ものだった。結果として、それはただの勘違いだったのだけれど。今日のこともきっと、そうに違いない。 半ばまどろみながら呑気に考えていた美希だったが、 『うん――――でも、実はさっき、由美にも電話したんだ。せつなを知らないか、って。そしたら、今朝は起きたばかり だから知らないけれど、昨日は見たって言ってたの』 「ふうん。どこで?」 『――――占いの館で』 「へぇ――――って!!」 ラブの言葉が頭に入った瞬間、意識が一気に覚醒する。 占いの館――――それは、ラビリンスのアジト。かつて、せつながイースとして暮らしていた場所。 「ちょっと、どうしてそんなところにせつながいるのよ!?」 『わかんないよ!! とにかく、アタシ、不安で――――せつなに、何かあったんじゃないかって、怖くて――――』 今にも泣き出しそうなラブの声に、美希はパジャマを脱ぎ捨てながら答えた。 「ラブ、すぐにそっちに向かう。ブッキーにはアタシが連絡するから、ラブはせつなに電話をかけ続けて。いいわね?」 『――――うん』 普段の元気さがまるで感じられない弱気な声に、胸が締め付けられそうになる。常が芯の強い彼女だからなおさらに、 その落ち込みが感じられて。それだけ、ラブがせつなを深く想っているということだろう。 美希は、私服に着替えると同時に、髪を梳くことすらしないまま、家を飛び出して行く。 思うのは、ただ一つ。 せつな。無事でいて。 同じ頃。 せつなは占いの館の前に立っていた。 ラブとダンスの練習をした公園や、あゆみと出会った丘。思い出の場所を巡っているうちに、だいぶ時間は過ぎてし まった。 ラブはもう、起きてるかしら。ふと、そんなことを思う。もしかしたらもう、起きていて、自分がいないことに気付いている かもしれない。そして、探しているかもしれない。携帯に電話をかけてきているかもしれない。 その携帯――――リンクルンは、腰のポーチに入れたままだ。音もバイブも切っているから、もしかしたら今、この 瞬間にも、ラブからの電話がかかってきているのかもしれない。 けれど、それに出るわけにはいなかった。 胸に抱えた包みを持ち直し、彼女は扉に近付く。 「来たわ、ノーザ」 周りには、誰もいない。だが、自分に向けられる視線に気付いて、せつなはそう言った。 その言葉と同時に、扉が音をたてて開く。招かれるままに、彼女は中に入って行った。 「遅かったわね」 迎えたのは、階段の踊り場に立っていた北那由他の声。冷徹な目で、彼女のことを見下ろしてきている。その視線が、 せつなの抱える布の包みに向けられて。 「まぁいいわ。それを早く、こちらに渡しなさい」 が、せつなはじっと彼女を睨み返しながら、動こうとしない。むしろ逆に、ギュッと胸に強く抱きしめる。 「イース!!」 「来ないで」 部屋の片隅から覗いていた隼人が、業を煮やしてせつなに近付こうとするが、彼女の放った鋭い一言に、足を止める。 「どうしたのかしら? せつなちゃん」 「本当に――――お母さんに、手出しをしないんでしょうね」 その問いかけの意図がわからず、怪訝そうに目を細めた那由他だったが、 「ああ、そういうこと。これが罠だと思っているのね」 せつなは、それには答えない。だが、その厳しい視線が、何よりも雄弁にその心を語っていた。 「フフフ――――」 不意に響く、笑い声。その主は、那由他。瞬や隼人ですら訝しむ中、愉快そうな顔をしたまま、彼女は階段をゆっくり と降り始める。 「そうやって用心するのはいいことね――――けれど、せつなちゃん。それは余計な心配よ。だって」 せつなの前に立った那由他の唇から、一瞬、笑みが消える。 「この期に及んで、お前ごときに罠など必要ないわ」 ゾクリ。背筋を、寒気が走る。 彼女の眼に浮かぶのは、蔑みの光。そして、絶対的な自信。 強者が弱者と向かい合うのだ。罠など無くとも、ただその力をふるい、踏み潰せばいいだけ。そう考えていることが、 ありありとわかる。 そして、確かに。 彼女と、自分の間には、圧倒的な実力差がある。拳を交えずとも、せつなには、それがわかった。 「さぁ、渡しなさい――――インフィニティを、私に」 唇を噛みながら、せつなは。 その胸に抱きしめていたものを、那由他に差し出した。 「フフ、フフフフ、フフフフフ」 こらえきれなかったのだろう。笑い声をあげながら、彼女はそれを受け取る。 「ついに――――ついに、わが手に、インフィニティが――――!!」 その邪悪な笑顔を、せつなは睨みながら。 拳を強く、握り締めていたのだった。 「それじゃ昨日、確かにせつなと占いの館で出会ったのね」 『うん。一人で、来てたみたいだったよ』 電話越しの美希の問いかけに、由美がそう答えたのが、微かに漏れ聞こえてきていた。ラブはそれを聞いて、目を 伏せる。彼女の顔に浮かぶ深い焦燥に、祈里は眉を曇らせた。 「ラブちゃん・・・・・・」 何か言ってあげないと。そう思うが、一体、何を言えばいいかがわからない。ただじっと、黙って見ていることしか。 こんな時に頼りになるのは美希なのだが、その彼女も電話を切った後は、困惑し切っているのだろう、難しい表情を 見せるばかり。 「せつなが占いの館に行ってたなんて――――」 何故。どうして。祈里は考えてみるが、答えは出てこない。 いや、考えたくないだけで―――― 「まさか、せつな――――ラビリンスに帰るつもりじゃ」 「そんなことない!!」 美希の言葉に、激しい否定の声をあげたのは、ラブだった。 「せつなは――――せつなは、もう、ラビリンスになんて――――」 「落ち着いて、ラブ。あたしだって、そんなこと考えたくないわ。けど、可能性として考えておかないと」 だが、彼女はブルンブルンと大きく首を横に振るばかりで、美希の話を聞こうとはしなかった。その態度に、しかし、 彼女は溜息を吐くだけだった。ラブのこの反応を、予想していたのだろう。 それに――――祈里は、美希の顔を見ながら思う。 それに美希ちゃん、自分で信じてないんだもんね。せつなちゃんが、ラビリンスに帰っただなんて。 欠片もそんなことを思っていないから、否定されても怒ったりしないのだろう、と。 そしてそれは、祈里も同じだった。 彼女が自分から、この街を離れるなんて、私、信じられない。 だが、そこでまた、思考が止まってしまう。 何故、昨日、せつなは占いの館に行ったのだろう。そして今日、どこに行ったのだろう。 「ま、まぁ、そんな心配せんかて、もしかしたらカオルちゃんのドーナツショップに行っとるだけかもしれんし。ほら、 ドーナツて、急に食べたくなって、我慢でけへんことあるやろ?」 場を和ませようとしたのか、タルトがそんなことを口にするが、誰もそれに応える者はなく。 重苦しい空気の中、不意に、泣き声がした。その声に、祈里はラブを見る。 「ラブちゃん。シフォンちゃん、お腹が減ってるみたい」 「ん・・・・・・わかった」 のろのろとラブはリンクルンを取り出し、ピルンの力でシフォンの御飯を取り出す。 お匙で御飯をシフォンの口元に運ぶラブの姿には、しかし、いつもの慈愛溢れる笑みがなく。 何となく、それを見ていられなくて、思わず彼女は窓の外に目を向ける。 一体、どこにいるの。せつなちゃん。 「――――な!?」 受け取った包み、その布をはがした瞬間、那由他の眼が驚愕に見開かれる。 包みの中に、あったのは。 ただの、枕だった。 今だ!! この一瞬を待っていたせつなは、左の手を伸ばして硬直した那由他の腕を掴む。 そして、逆の手で、腰にかけたポーチに触れた。 「アカルン!!」 叫び声が、響いて。 驚く隼人と瞬の目の前で、せつなと那由他を赤い光が包み、眩しく輝いたかと思うと、次の瞬間には。 二人の姿は、かき消すように無くなっていた。 7-316へ
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/539.html
ラブside スースー 隣からせつなの寝息が聞こえる。 ……せつな今日はいつも以上にはしゃいでたもんね。 ……。 ……。 はぁ、眠れないなぁ。 「はぁ。」 あれ?あたしじゃないよ。 「…ブッキー?」 「ラブちゃん?」 「ブッキーも起きてたんだ。」 「うん、なんだか眠れなくて。」 「あたしもなんだ…ねえ、ちょっとだけベランダでおしゃべりしよっか。」 「そうだね。…ここだと美希ちゃん達起きるかもしれないものね。」 「それじゃぁ、そ~っとそ~っと。」 あたしとブッキーは上着を着てベランダへ移動した。 今日はほんとに楽しかった。 クリスマスパーティ、プレゼント交換、トランプ遊び、まくら投げ…それから他にも沢山…。 「今日は楽しかったねラブちゃん。」 「そうだね。」 「…ラブちゃんのトナカイ、可愛かったよ。特に赤いお鼻が、ふふ。」 「あ~ブッキーってそういうこと言う子だったんだ~。ひどいな~。」 笑いながらそう言い返した。 「ふふ。」 「あはは。あぁ~あ、それにしても、結局クリスマスパーティが始まってから最後のプレゼント交換まで 皆ずっとあの恰好のままだったね。」 「本当は美希ちゃんとせつなちゃんだけの予定だったのにね。」 「そうだよ、それなのにあたし達まで……まさかブルンを使うとはとは思わなかったよ…計画失敗だね。」 「う~ん、失敗とまではいかないような。でも成功とも言えないから…半分半分かな?」 「あはは、そうかも。」 「…ところでラブちゃん?」 「何?」 「どうやって美希ちゃんを説得したの?」 「えっとそれは…秘密。」 「え~、教えてくれないの?」 「あはは。」 流石に言えないよ。あたしを好きにして良いって言ったなんて…。 「そういうブッキーは?」 「わたし?わたしは普通にお願いしたよ。そしたら変身してくれたよ。」 「あ~せつな、ブッキーに甘いもんね~。」 「そう…かな?」 「そうだよ。」 えぇ、そりゃもう。あたしや美希たんが呆れるくらい。 「…それにしても二人がコソコソしてた理由がこれだったなんてね。」 あたし達はそれぞれ自分の小指を見る。 あたしは右手、ブッキーは左手を。 シルバーのピンキーリング。 美希たんとせつなからのクリスマスプレゼントだ。 指の背で曲がったラインの先に四葉のクローバーが、そしてもう片方には、小さな宝石が付いている。 あたしは青、ブッキーは赤。 「ふふ、四人お揃いだね。」 ブッキーが嬉しそうに呟いた。 「ふぁぁ~あ。」 あ、しまった。 「ラブちゃん?」 おしゃべりしてたら段々眠たくなってきた。 「っと、ごめん。……ブッキーそろそろ中に入ろうか。」 「そうだね。」 あたしは閉めていた窓に手を伸ばす。 でも、ふとあること思いつきその手を止めた。 「ねえブッキー?」 「何?ラブちゃん?」 「今更だけどさ…場所……交代しない?」 「…いいよ。」 あたし達は二人を起こさないように静かに部屋の中へ入った。 そして、あたしは美希たんの、ブッキーはせつなの隣に移動する。 「美希たんとせつなびっくりするかな?」 「するんじゃないかな。」 あはっ、ちょっと楽しみ。 「おやすみブッキー。」 「おやすみなさいラブちゃん。」 ブッキーside 目に映っているものは天井。 「……。」 眠れない。 「…ラブちゃん?」 ベットに目を遣りラブちゃんに声をかけてみる。 スースー もう眠ってしまったみたい。ベランダであくびしてたものね。 ちらり 今度はせつなちゃんの方を見る。 せつなちゃんの後頭部が見える。 ドキドキ 眠れないのはせつなちゃんのせいだろうか。 「んっ。」 わっ! せつなちゃんが寝がえりを打った。顔と身体がこちら側に向いた。 ドキドキ ドキドキする、その……キスはもう何度もしているけどこんなに近くで一緒に眠ったことはまだなかった。 ……キス…かぁ。 ちらりとベットの方を見る。ラブちゃん達眠ってるよね。 わたしはそっとせつなちゃんの布団に潜り込んだ。 そして眠っているせつなちゃんに近づいた。 チュッ ほっぺにキス。 いつもせつなちゃんからだからたまには…ね。 「う…ん、いの…り?」 せつなちゃんが目を開けた。 しまった!起こした? ギュッ えっ。 せつなちゃんの腕がわたしの背中にまわる。 「…せつなちゃん?」 スースー …寝ぼけてたのかな? ドキドキする……でも…あったかい。 わたしはせつなちゃんの胸にすり寄る。 「おやすみなさい、せつなちゃん。」 そう言ってわたしは目を閉じた。 美希side ツン ツン ツンツン …何?なんだかつつかれているような。 あたしは目を開けた。 「あ、起きた。おはよう、美希たん。」 ……なぜ隣にラブが?しかも同じ布団に……。確かブッキーが隣じゃなかったかしら? 「どうしてラブが!『シーッ!』 ? 首を伸ばしラブが指差す方を見る。 …なるほどね。 二人はまだ夢の中…か。 「大声出しちゃいけないことはわかったわ。」 あたしは小声でラブに話しかける。 「でもどうしてラブが隣に?」 「あはは………まあいいじゃん。」 「そんなことより昨日は楽しかったね、美希たん。」 「そうね。」 「それからコレありがとう。」 そう言ってラブは右手の小指にはめているリングをあたしにみせた。 「喜んでもらえてよかったわ。」 「でも心配したんだからね。」 「心配?」 「せつなとコソコソしてたから、もしかしたらって…。」 「せつなとあたしが?……ふふっ。」 「美希たん?」 「そんな心配するだけ無駄よ。だってほら。」 あたしは左手の小指を立てた。 そして、リングについている宝石をラブにみせる。 「あたしはラブの色、せつなはブッキーの色よ。この意味……わかる?」 「……美希たんは…あたしが好きで、せつなはブッキーが…好き?」 「そういうこと。だから不安にならなくていいのよ。」 「うん。」 ギュッ 安心したのかラブがあたしに抱きついた。 ……もうラブったら。 「……そういえばラブ……今度あたしの好きにして良いって言ったわよね。」 「えっ、言ったけど……はっ…まさか…。」 「うふふ。」 「ダ、ダメだよ美希たん、だって隣にせつなとブッキーがいるのに。」 「そうね~、声出すと起きちゃうかもね。」 「そうだよ、だから『だ・か・ら……声、だしちゃダメだからね。』 「えっ。」 「ちょっ…と、まっ…美希たん。」 「昨日散々笑ったものね、覚悟しなさい。」 「まだ根に持ってるの~。そんな~。」 「…ほら、ここは?」 「っ…ゃぁ…あっ。」 「ゃっ、美希ぃ…っ…だめっ。」 「ふふ、静かにしないと、せつな達起きちゃうわよ。」 ん? 微かに赤い光が見えた。 ……アカルン? …せつな、起きてたのね。 「…んっ。美希ぃ。」 潤んだ瞳であたしを見ているラブ。 ちょっと苛めすぎちゃったかしら…。 「ラブ、声…出しても良いわよ。」 「ハァハァ…でも…。」 「大丈夫よ、せつな達部屋にいないから。」 「えっ。」 あたしは中途半端に脱げていたラブのパジャマに手をかける。 「どうやら気を利かせてくれたみたいよ。」 「そ…れって…。」 「思う存分やれってことじゃないかしら?」 あたしも邪魔なパジャマを脱ぎさる。 そしてラブに口づける。 「んっ…んんっ…」 深く、激しく互いの舌を絡めあう。 「んっ、美希っ」 …ラブ。 「っはぁ…ラブっ、ラブっ。」 お互いもっともっとと求めあう。 右手と左手のリングが幾度も重り、そして離れた―――― せつなside …いったい何なの…この状況は。 確か昨日は、私、ラブ、そしてラブのベットに祈里、美希が眠っていたはずなのに… …なぜ?……どして? ……どうして腕の中に祈里が? ガタッ 「ゃっ、美希ぃ…っ…だめっ。」 そして、ラブ達は何をやってるのよ! 「ふふ、静かにしないと、せつな達起きちゃうわよ。」 もう起きてるわよ! ハァ ……まったく美希ったら。 ここにいたら眠れそうにないわ…。 私は布団をかぶった。そしてほんの少しだけ頭をだし光が僅かに漏れるようにする。 今の美希ならこれで気づくでしょう……。 「…アカルンお願い。…私の部屋へ。」 ヒュン アカルンを使って私の部屋の布団へと移動した。 …これでよし。 「ごめんねアカルン、今日はこんなことばかりに使って。」 「キィー。」 気にしないでと言っている。 「ありがとうアカルン。」 「キィー」 でもほどほどに…ですって。 「ふふ、わかってるわアカルン。…おやすみなさい。」 「キィ~。」 おやすみなさい…そう言うとアカルンはリンクルンに戻っていった。 「んっ。」 祈里が小さな体を更に小さく丸めた。 寒いのだろうか? そういえば、さっき布団に入ったばかりだからシーツも布団もまだひんやりとしている。 ギュッ 私は祈里を抱く腕に力を込めた。 こうすれば少しは温かいだろう。 それにしても、ラブも美希も時と場所を考えてほしいわ…まったく。 …でもそんなラブと美希の関係が本当は少し羨ましい。 私も祈里にもっと触れたい触れられたい…と、そう思う時がある。 でも… 祈里の髪をそっと撫でる。 「んっ、……せつ…なちゃん。」 ふっ。 顔がほころぶ。 そう、…なにも焦る必要はない。 ラブ達にはラブ達の、私達には私達の進み方がある。 私達は私達のペースでゆっくりと進んでいけばいい。 チュッ おでこにキスを落とす。 「おやすみなさい、祈里。」 そして私は腕の中の温もりを感じながら再び眠りについた。 【終】
https://w.atwiki.jp/apgirlsss/pages/519.html
The Last Nut(前編)/一六◆6/pMjwqUTk 「人の不幸は蜜の味。嘆いて育て。悲しく育て」 ノーザが歌うようにそう言いながら、植木の根元に液体を注ぐ。 青い水差しの口から流れ出るのは、濁った黄土色の不幸のエネルギー。だがそれは、いつものようになみなみと注がれはせず、すぐに糸のような細い流れになると、やがて滴となって、植木鉢の半分も満たさぬうちに止まった。 「あら……もうお終い?」 ノーザが残念そうに呟く。不幸のゲージが破壊された今となっては、これが最後の不幸のエネルギー。植木はいつものように、ゴクゴクと音を立てて注がれた液体を吸収したが、枝先に現れたのは、いつもの半分にも満たない、小石のようにごく小さなソレワターセの実だった。 「ふん、まぁいいわ」 ノーザの真っ赤な爪が、葉のほとんどない、干からびたような枝に伸びる。最後に出来た小さな実には目もくれず、まだ枝に残っていた比較的大きな実の下に手を翳すと、実はポトリとノーザの掌の上に落ちた。続いてもうひとつ。 「ひとつめは、インフィニティを連れ去るため。二つめは、ヤツらがもしラビリンスまで攻めて来るようなことがあったら、それを迎え撃つため。そして残りのひとつは……フフフフ……」 最後は、出撃中のソレワターセとの通信機として使っていた一番大きな実を摘み取ると、ノーザは三つの実を握り締め、ニヤリと口の端を上げた。 植木鉢のすぐ隣にある机の上には、蓋をした広口瓶が置かれている。中にはその大半が黒ずんだ一枚の葉と、その下でまだ存在を主張している小さな光。だが、最初は目も眩むばかりだったその光も、今では瓶の周りを弱々しく照らすばかりだ。 「もう少し……。あともう少しで、インフィニティが手に入る」 嬉しそうにそう言って、部屋の奥へと消えていくノーザ。ただひとつ残された小さな実は、その後ろ姿を、枝先からポツンと見送った。 しばらくして、部屋の壁の一角がぐにゃりと歪み、次元の扉が開かれた。やって来たのは幹部の一人、ウエスター。キョロキョロと落ち着きなく部屋の中を見回すと、植木鉢の向こう側にあるソファに目をやって、パッとその顔をほころばせた。 「あった……。これが無いと、ドーナツが食べられない。全く、不便な世界だ」 ウエスターが植木の横から、ソファの上に置いてあった財布に手を伸ばす。その戦闘服の袖が、植木の枝に引っかかった。いや、よく見ると、何だか枝の方から袖に引っかかりに来たようにも見えた。 細い枝が、パシンと音を立てて撥ね返る。ウエスターはそれには気にも留めずに、再びいそいそと次元の扉をくぐった。 その後ろから、灰緑色の小さな木の実が――さっきの衝撃で枝から離れたらしい、最後のソレワターセの実が、音も無くコロコロと転がって、密かに次元を超え異世界へと――四つ葉町のある世界へと、旅立っていった。 The Last Nut(前編) 「うわぁ! 商店街は、もうすっかりクリスマスだね!」 ラブが歓声を上げて、隣りを歩くせつなにニッコリと笑いかける。せつなも、ええ、と頷いて、降り注ぐ日の光に、眩しげに目を細めた。 太陽は、今日もこんなに明るく輝いているけれど、吹く風は肌を刺すように冷たい。もう十二月も半ば。このくらいの寒さは、この世界では当たり前のことらしい。 普段は朝と夕方しか通ることのない商店街。その上、このところダンスレッスンが忙しくて、毎日駆けるようにここを通り過ぎていた。 久しぶりにこうしてゆっくりと眺めてみると、街全体に、何だか浮き立つような雰囲気がある。 広場の大きなクリスマス・ツリーの飾り付けはこれからだが、最近までは無かったはずの様々なクリスマスの飾りが、クローバータウン・ストリートを彩っていた。 色とりどりのきらびやかなモール。華やかで愛らしいクリスマス・リース。サンタクロースのステンドグラスや、店全体をプレゼントに見立てて大きなリボンを壁に這わせている店など、それぞれ思い思いのデコレーション。どれも見ているとワクワクして、心が温かくなってくる。 「ねぇ、おかあさん。サンタさん、あのぬいぐるみ、くれるかなぁ」 おもちゃ屋さんの前から、何だかヤケに真剣な幼い声が聞こえた。ショーウィンドウにペタンとおでこをくっつけて中を覗いていた小さな女の子が、心配そうな顔つきで、母親を振り返っている。 母親は優しい笑顔を見せて、女の子の頭を撫でた。 「ええ。いい子にしてたら、きっとサンタさんが届けてくれるわ」 「じゃあわたし、いいこにしてる!」 女の子がぴょんと跳びはねて、母親と手を繋ぐ。 歩き始める二人の後ろ姿に、せつなはホッと小さく溜息をついた。 「ねぇ、ラブ。小さい頃は、ラブもサンタさんを信じていたのよね?」 「う、うーん……あたしの場合は小さい頃っていうか、結構大きくなるまで信じてたんだよね。ナハハ~」 照れ笑いで頭をかくラブに、素敵ね、とせつなはポツリと呟く。 「いや、素敵って言うより、それはねぇ……せつな?」 「もしも小さい頃に、サンタさんの伝説があるような世界に居たとしても、私は……」 せつなはそう言いかけて、慌てたように首を横に振った。 「ごめんなさい、何でもないの」 その少し寂しげな笑顔を見て、ラブの言葉に思わず熱がこもる。 「せつなだって、今からサンタさんを信じる……ってのは、もう知ってるから無理か……でもでもっ、これからいくらだって、最高に楽しいクリスマス、過ごせるよ! みんなでご馳走を食べて、ケーキを食べて、ゲームしたり、プレゼントを交換したり。クリスマスって、ほんっと楽しいんだからっ!」 ねっ?と上気した顔で笑いかけるラブに、せつなはクスリと笑って、そうね、と微笑み返す。 「あ、じゃあさ、今日は無理だけど、明日ダンスレッスンの前に、お父さんとお母さんのプレゼント、一緒に買いに行こうよ!」 今日はあゆみに頼まれて、クリスマスに飾るポインセチアの鉢植えを買いに来た。帰ってお昼ご飯を食べたら、午後はみっちりダンスレッスン。とてももう一度買い物に行けるような時間は無い。 「ええ、わかったわ。小さい頃と違って、大きくなったら、それぞれがお互いのサンタクロースになるってわけね?」 「そう! せつな、良いこと言う!」 せつなの言葉に、ラブがキラキラとその瞳を輝かせたとき。 「あ、ラブおねえちゃん、せつなおねえちゃん!」 可愛らしい声が、二人を呼び止めた。 白いフード付きのコートを着て、お母さんと一緒に手を振りながら歩いて来たのは、二人と仲良しの女の子、千香だった。 「へぇ、ポインセチアって、クリスマスの花なんだ」 千香が感心したように、ラブとせつなの顔を交互に見つめる。 ラブたちが病院で千香と知り合ったとき、せつなはまだその場に居なかった。だが、夏休みの最後に、二人は偶然知り合った。今ではせつなは千香にとって、ラブたちと同じ、仲の良い優しいおねえさんだ。 「千香ちゃんも、お母さんとお買い物?」 せつながそう問いかけると、今まで楽しそうだった千香の顔が俯いた。 「……病院に行ってきたの。最近、ちょっとだけ胸が苦しいから、先生に診てもらったの」 「そう。それで?」 心配そうに眉根を寄せるラブとせつなに、千香のお母さんが、静かな口調で言葉を繋ぐ。 「今日の診察では、大したことは無いんじゃないかって言われたんですよ。でも、念のために検査しましょうって。それで何か悪いところが見つかっても、病院に行ったのが早かったから、治りも早いだろうって言われたんです。だからね。千香ちゃんも、あんまり心配し過ぎちゃダメよ」 「はぁい」 お母さんの言葉に、千香はようやく顔を上げた。 「検査の結果が何でもなかったらね、千香、今年は先生になるんだよ」 ふいに、千香がそう言って、少し得意そうな顔をする。その顔を見て、せつなも笑顔になった。 「先生って、なんの?」 「病院の中にある学校でね、クリスマス・リースの作り方、みんなに教えてあげるんだ。先生に、お願いって言われたの」 「へぇ。凄いね、千香ちゃん!」 真っ直ぐなラブの言葉に、千香は少し弱々しいながらも笑顔で頷いて、バイバイ、と二人に手を振ってみせた。 「千香ちゃん……何ともなければいいわね」 「そうだね。千香ちゃんもお母さんも、早く安心したいよね」 去って行く二人を見送って、せつなとラブは、そっと溜息を付いた。 ☆ 二人が異変に気付いたのは、花屋に着いたときだった。 こんにちは~、と呼びかけるラブに、店の奥から花屋の看板娘が姿を見せる。クローバーの四人とも仲良しで、彼女たちが「花屋のおねえさん」と呼んでいる人物だ。 「あら、ラブちゃん、せつなちゃん、いらっしゃい。今日はなぁに?」 「ポインセチアの鉢植えが欲しいんですけど……」 ラブがそう言いかけたとき、通りの向こうで、ガチャンと何かが落ちるけたたましい音が聞こえた。 せつなが後ろを振り返る。そこには、信じられないものを見ているような顔つきで花屋のおねえさんを見つめる、お向かいのパン屋のおじさんの顔があった。足元に転がっているのは、パンを乗せたトレイとトング。今の音の正体は、これだったらしい。 「おじさん、どうしたんですか?」 花屋のおねえさんの問いかけに、おじさんは裏返った声で答える。 「え……。キ、キミ、たった今、そっちに走って行ったんじゃ……。うちのパンを試食して、蕎麦屋のおにいちゃんと立ち話して、それから……そっちに行ったよな?ど、どうして、店の中から……?」 「え……何言ってるんですか。パンの試食って、昨日は確かに新作を試食させてもらったけど……。それに、お蕎麦屋さんには、今日はまだ会ってないですよ。わたし、さっきまで店の奥で電話してたんですから」 戸惑ったように、首を傾げる花屋のおねえさん。その言葉を聞いて、まだトレイを拾おうともしないで立ち尽くしていたパン屋のおじさんは、我に返ったように、キョロキョロと辺りを見回した。 「あ、居た居た。お蕎麦屋さん! ちょっとこっちに来てよ」 おじさんの声に振り向いたのは、バイクを止めて、何だか不貞腐れたような顔で缶コーヒーを飲んでいる、蕎麦屋のおにいちゃん。心なしか、その目の辺りが赤くなっている。 「いいですよ。俺ぁ、どうせフラれたんだぁ~」 「その話じゃ無いんだよっ。いいからこっち……」 「あんなに早くから約束してたのに、あの言い方はないでしょ? 一緒にラブちゃんたちを応援に行こうって……あれ?」 なおもブツブツ言っていた彼の虚ろな目が、ラブとせつなを捉えた途端、驚いたように丸くなった。 「……ラブちゃん、せつなちゃん。ここに居たのかい? 俺はまた、てっきりダンスの練習してるんだと思って、さっき花屋さんに……え」 蕎麦屋のおにいちゃんの目が、今度は驚きのあまり、丸から点になる。 その視線の先には、トレイとトングを拾って、大切そうにパン屋のおじさんに手渡している、花屋のおねえさんの姿があった。 「ど……どうして……。さっき、ラブちゃんたちの居場所を俺に尋ねて、公園の方に行ったんじゃ……」 「ラブ! 行くわよ!」 せつなが突然、その言葉を皆まで聞かずに、通りに飛び出した。 「ちょ、ちょっと! せつな、待ってよぉ!」 ラブが慌ててその後を追う。 「どうしたの? おねえさんなら、ちゃんとそこに居たじゃない」 「……ソレワターセかもしれない」 「えっ?」 「お母さんのときみたいに、ソレワターセがお花屋さんになり澄ましていたのかも」 せつなの言葉に、ラブが息を呑む。 「じゃあ、本物は……」 「今、お店に居る方が本物よ。パン屋さんが新作を作っていることを知ってたし、おじさんのパンを、とっても丁寧に扱ってたもの」 「それじゃニセモノの方が、あたしたちの居場所を?」 「ええ。シフォンが危ない!」 その言葉を聞いて、ラブの表情が、キリリと引き締まった。 「わかった。じゃあ、あたしは先にタルトとシフォンのところへ戻ってる!」 言うが早いか、ラブは元来た道を全速力で走り出す。 せつなもそれを見届けると、なお一層足を速めた。 だが――商店街を通り抜け、公園へ行き着いてみても、それらしい人影は、どこにも見当たらなかった。 ☆ 同じ頃、祈里は自宅である山吹動物病院の入り口に立っていた。 このところダンスの練習で忙しかったので、久しぶりの病院でのお手伝い。もっとも、午後からは練習があるから短い時間ではあるけれど、祈里にとって、それはとても大切な時間だ。 おまけに今日は運が良いことに、退院する患者さんとその飼い主を見送ることができた。元気になったペットと、その子を嬉しそうに連れて帰る飼い主の姿を見るのは、このお手伝いをしていて一番嬉しいこと。祈里が将来獣医になりたいという動機の、根っこにもなっている風景だ。だからいつものように、次の患者さんのために診察室から出られない両親に代わって、病院の玄関まで、彼らを見送って出たのだった。 「寒いっ!」 白衣姿の肩をぶるっと震わせて、暖かな室内へ戻ろうとする。そのとき、見慣れた大きな影が目の前を走り抜けたのを見て、祈里は驚きに目を見開いた。 「……ラッキー?」 山吹動物病院ではおなじみの、大型犬のラッキー。しかし、今日はいつも一緒に居るはずの、飼い主のタケシ少年の姿が見えない。リードの持ち手は地面に当たって、カシャカシャと頼りなげな音を立てている。 「ちょっと待って、ラッキー! あなたひとり? タケシ君はどうしたの?」 祈里が思わずそう叫んで走り出す。その腰に付けたリンクルンから、さっと黄色い光が飛び出して、一直線にラッキーを追った。祈りの鍵・キルンが、ラッキーの頭上をくるくると回る。 ラッキーは不意に立ち止まると、キルンに向かって、ウー……と低く唸り声を上げた。 ――忌々しい妖精め! 食われたいのか! (……え?) 祈里が呆然と立ち尽くし、キルンが一目散にリンクルンへと逃げ戻る。再び走り出したラッキーは、通りをどんどん駆けて行って、あっという間に見えなくなってしまった。 「あ、祈里おねえちゃーん!」 ラッキーの姿が見えなくなるのと同時に、祈里の後ろからかけられる無邪気な声と、元気の良い犬の吠え声。振り返るまでもなく、彼女はその声を聞いて、三度驚きに目を見開いた。 嬉しそうに駆け寄ってくる、一人と一匹。それはタケシ少年と――彼の大切な家族である、大型犬・ラッキーだった。 ☆ 美希は、出がけに母親のレミに声をかけようと美容院に一歩入ったところで、ひっ!と小さく悲鳴を上げた。 美希の頬を掠めて、何か赤黒い小さな物が、ひゅん、と店の中を横切ったのだ。 (な……なに?) ゴクリと唾を飲み込んで、慎重に店の中を見回す。 奥に何か取りにでも行っているのか、レミの姿は無い。店にはお客さんが一人だけ。カーラーを巻いた姿で居眠りしている、初老の女性だ。その女性の目の前にある鏡に、美希の目が釘付けとなった。 鏡の中の、俯いて小さく舟を漕いでいる彼女の姿が、ゆっくりと顔を上げて、店の中を窺ったのだ。鏡の外に居る当の本人は、その間もずっと居眠りを続けているというのに。 (一体なんなの? アレ……) こわごわ鏡を見つめている美希の視線に気付いたのか、鏡の中の女性が慌てたように俯いた。そして次の瞬間、さっきと同じ小さな物体が、ぴょんと鏡の中から飛び出した。 (……あれは!) 一瞬の驚愕の後、美希の顔に焦りが走る。 さっき赤黒く見えたのは、光の加減だったのか――それとも単に苦手意識のなせるワザなのか――今は灰緑色に見える、ピンポン玉のような姿。 (あれは……ソレワターセの素!) 人並み外れて目の良いせつなならともかく、もしもこれがラブか祈里だったなら、きっとその正体が判りはしなかっただろう。 美希だけが、実の状態のソレワターセを間近で見たことがあった。サウラーにクローバーボックスを奪われそうになったとき、彼はその実をキュアベリーに見せつけていたのだ。 小さな実は、音も立てずに二度、三度と床でバウンドしてから、自動ドアの前にその身体を叩きつけ、開いたドアから勢いよく外へと飛び出した。 美希も慌てて後を追う。店を飛び出すと同時にリンクルンを取り出し、走りながら耳に当てた。 「美希ちゃん? あなた、もう出かけるの?」 物音に気付いて、レミが店の奥から出て来る。が、そのときにはもう、美希の姿はどこにも無かった。 ☆ 「じゃあ、あれはやっぱりソレワターセの実なのね」 険しい顔つきで尋ねるせつなに、美希も真剣な表情で頷く。ラブも祈里も、そしてタルトも、さすがに表情が硬い。シフォンだけが嬉しそうに、風にカラカラと舞う落ち葉を追いかけている。 ラブたち四人とタルトとシフォンは、いつものドーナツ・カフェに居た。 相手がソレワターセだと判った以上、家に居るのは危険だ。またあゆみや圭太郎を巻き込むわけにはいかないし、たとえ隠れてやり過ごそうとしても、どこまでも追って来る相手である。迷った挙句、結局ここに集まることになったのだった。 カオルちゃんは、いつものメンバーが顔を揃えたのを見て、これ幸いと買い出しに出かけてしまった。ラブたちにとっても、これは好都合だ。 「あれって、実なのね? 道理で大きさが揃っていないわけだわ。この前見たのより、随分小さかった」 美希の問いかけに、せつなが少し辛そうな顔をして、コクリと頷いてみせる。 「ええ。私も話に聞いたことがあっただけで、実物を見たのは、ノーザがこの世界に現れたときが初めてだけど」 ソレワターセの実を育てる肥料は、不幸のエネルギー。これは、幸せが無い代わりに不幸も無いラビリンスでは、集められないものだ。 最高幹部・ノーザだけが持つ、最強の秘密兵器を生み出す実――ラビリンスに居た頃、せつなが聞いていたのはその程度の情報だった。 「それで、どうする? ソレワターセの実は、この前のあゆみおばさんの時みたいに、誰かになり澄ましてやって来るんでしょう? 見分ける方法は、無いのかしら」 祈里が不安そうに、三人の顔を見回す。 「ソレワターセは、姿はそのまま真似出来ても、記憶や性格までは映し取れないわ。だから、その人なら当然知っていて、他の人が知らないようなことを尋ねてみれば、本物かどうかわかるはずよ」 せつなの言葉に、ラブが大きく頷いた。 「そうだね。あのときは、お母さんがせつなに作ったブレスレットを、せつなのだって知らなかったから、判ったの。だから、あたしたちが知ってる人なら、きっと見分けられるよ!」 経験者である二人の説明に、美希と祈里が、まだ少し不安そうながら、納得したように頷く。 「ただ……どうしてそんなに、次から次へと違う姿になっているのかしら」 せつなが真剣な表情で、誰へともなく問いかける。花屋のおねえさんから、犬のラッキー、そして未遂に終わったけれど、美容院のお客さん。わかっているだけで、短時間にそれだけの姿になっているのだ。 「せやなぁ……。何か、ひとつの姿ではおられんワケでもあるんやろか」 「ひとつの姿で居られない、ワケ?」 ラブが不思議そうな顔で、タルトの言葉を繰り返したとき。 「誰か来るわ!」 公園の入り口から近付いてくる気配に、せつながいち早く気付いて、皆に警告を発する。 「ここに居たんだ……。探したんだよ」 途切れ途切れにそう言いながら、一人の人物が、ゆっくりと四人に近付いてきた。 ~前編・終~ 複数49へ
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/134.html
「まったく、タルトも困ったもんだよ!」 タルトのヘソ騒動は解決し、家族全員で帰宅した桃園家。 ところが、タルトの体調不良はアイスを全部食べてしまったせいだったことが判明した。 ラブとせつなは二人でアイスを買い直し、せつなの部屋へ。 ラブの部屋はタルトが泣きながら逃げ込んだせいで入れない。 「それじゃあ、アイス、食べようか……」 「え、ええ……」 アイスが楽しみだったのは、ただアイスが食べたかったからだけではない。 「はい、せつな。あーん」 ラブはアイスを容器からスプーンですくい取って、せつなの口元まで移す。 せつなは顔を赤くしながら。それを咥え、飲み込む 「どう? せつな? おいしい?」 「うん。アイスも美味しいけど、ラブが食べさせてくれたから、もっと、美味しい」 「もう照れるなぁ~。じゃあ今度は、せつなの番だね」 今度はスプーンを受け取ったせつなが容器からアイスをすくい、ラブの口元へ移す。 ラブも先程のせつなと同じようにそれを食べる。 「クッハー! せつなのアイスで幸せゲットだよ」 「やっぱり恥ずかしいわ、もう!」 二口だけ食べられたアイスの容器が二人の真ん中に置いてある。 「それじゃあ、もう一回やろっか……」 それからは無言で交互にアイスを食べさせていく二人。 お互いから手渡されるスプーンが徐々に熱を帯びていくのが分かった。 ただ黙々と時間が過ぎていく。 アイスの容器が空になったのは夕方頃だった。 タルト同様、二人揃って仲良く腹痛を起こしたのは言うまでもない。
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/673.html
せつな バレンタインの約束…覚えてる? 2人でチョコレート手作りしようって。 大好きな、お父さんとお母さん、美希とブッキーに。 感謝の気持ちを込めたチョコレート、プレゼントしようって。 約束したよね。 ゆびきり…したよね。 ゆびきりげんまん うそついたら はりせんぼんのーます。 約束したのに。 なんで いないの? せつな せつなの黒くて綺麗な髪に触れたい。 細くてしなやかな指に絡めたい。 そして、深紅の瞳に見つめられたい。 せつな 会いたい。 会いたいよ… ラブ ごめんなさい。 “チョコレート作って、大切な人達にプレゼントしようね” バレンタインの約束。 2人だけの約束… 守れなくて、ごめんなさい。 離ればなれになって気づく。 ラブ… あなたは私に幾つもの幸せをくれた。 あなたが居たから、今の私がある。 それなのに… 私はラブに何もしてあげてない。 いつも寂しい思いをさせてばかり。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 それでも… ラブに会いたい。 次に会うときは、私がラブを幸せにしてあげる。 ラブと2人で生きて行きたい。 それが私の新しい夢。 帰るから。 必ず帰るから。 大好きよラブ。 2人で一緒に幸せになろうね。 せつな ありがとう。 バレンタインの約束。 覚えていてくれたんだね。 それだけで充分だよ。 それだけでも、嬉しかったよ。 ねぇ、せつな せつなはあたしに何もしてないって言うけど。 そんなことないよ。 あたしもせつなから、いっぱいの幸せ、もらったよ。 初めて会ったあの日。 幸せが訪れるって占ってくれた。 それからなんだ。 プリキュアになれた。 ミユキさんに会えた。 美希たん、ブッキーとダンスが出来た。 そして… せつなと心通わすことが出来た。 全部せつなのおかげなんだよ。 全部せつなからもらった幸せなんだよ。 あたしはもう大丈夫。 ちゃんと待ってるから。 せつなが、ラビリンスの人達みんなを笑顔にして… そして、あたしのとこに帰って来るまで。 待ってるから、ずっと待ってるから。 あたしも大好きだよ、せつな。 2人で一緒に幸せになろうね。
https://w.atwiki.jp/fleshyuri/pages/1050.html
「ねえラブ?」 「なに? せつな」 「美希のこと、みきたんって呼ぶの、どして?」 休日の朝、朝食後にラブの部屋で、雑誌を読みながらくつろいでいた私は、ふと疑問に思ったことを口にした。 「あー、それね。いつだったかなー、あたしがふざけてみきたんって呼んだ時に、みきたんの反応が面白くってさー。それから、からかうように使うようになったんだ」 「そうだったの。それで、美希はどんな反応だったの?」 「うん、えーっと、あれ? どんなだったかなあ?」 覚えていないらしい。 からかわれたのだから、美希は怒ったのだろうか。ラブに美希が怒るのは、簡単に想像できた。 「おっかしいな~、面白かったのは覚えてるんだけどな~。ごめんせつな、思い出せないよ~」 「そんな、いいのよ。ただ、謝るなら美希にね」 苦笑しながらそう言った私に、ラブはおどけてカオルちゃんのように笑い返した。 ラブは本当に覚えていないのだろう。ラブが忘れていることを、美希には教えない方が良い気がした。少しばかり美希に同情する。でも、ラブが覚えていないことに、ほっとしてしまった自分は、ひどく嫌な子だ……。 「ねえブッキー」 「なあに? せつなちゃん」 「ラブが美希のこと、みきたんって呼ぶの、いつからか覚えてる?」 休日の午後、わたしの部屋で、せつなちゃんに手編みを教えていたとき、そう質問された。 「それね、覚えてるよ。小学校三年生のときにね、ラブちゃんが美希ちゃんをからかう時に使うようになったのよ」 顔を赤くして焦る美希ちゃんは、かわいかったな。ラブちゃんも癖になったのかな。 「その時の、美希の反応がどんなだったか、覚えてる?」 「え? 美希ちゃんの、反応?」 「ええ、美希の反応」 重ねられた質問に、わたしは少しひっかかるものを感じた。 せつなちゃんが、ラブちゃんではなく、美希ちゃんのことを聞いた。 せつなちゃんの探るような目に、わたしはどう答えるのがいいのか迷った。わたしはせつなちゃんの目を避けて、 「どうだったかしら」 と、思い出すふりをしながら、ごまかし方を考えていた。 せつなちゃんも感付いているのだろう、きっと。美希ちゃんの反応は、あの時も今も、根底にあるものは変わらないはず。試しにわたしが呼んでみた時の、反応の違いに、あの時の幼いわたしでも漠然と気付いたのだ。今、思い返せば余計にわかる、痛いほどに。 わたしが答えることができずにいると、 「面白かった?」 探るような目をわたしに向けたまま、せつなちゃんはそう言った。 「そうね、面白かったような……。あ、ラブちゃんが覚えてるかもしれないわ」 「ラブはね、覚えてなかったわ」 「え? もうラブちゃんに聞いたのね」 「ええ」 答えをラブちゃんに丸投げするという逃げ道はなくなってしまった。 面白がっていたラブちゃんは、あの時も、そして今も、気付いていないのかな。本当に? 「ブッキーも、覚えていないのね」 そういったせつなちゃんは、ずっと探るような目をわたしに向けたままで、 「でも私も、その場に居れたらよかったのに」 と続けた。なにが、でも、なのか疑問に思いつつ、 「ごめんなさい。」 咄嗟にわたしは謝っていた。 「どして? ブッキーが謝るところじゃないわ」 「うん……ごめんなさい」 「だから、違うでしょう?」 また謝りそうになったわたしは口を閉じた。せつなちゃんも黙った。 わたしはずっと避けていたせつなちゃんの目を見た。一瞬、表情がかたくなったせつなちゃんは、下を向いて、 「いえ、ごめんなさい。私が変な質問したのがいけなかったのよ」 「変だなんて……」 気まずい。わたし、反応間違えたかな。 「……あ、私、用事を思い出したわ。ブッキーごめんなさい、私帰るわね。今日はありがとう。これの続き、今度また教えて頂戴? よろしくね」 下を向いたまま突然、一気に捲し立てたせつなちゃんは、それでも、ピンクの編み物は大事そうにカバンにしまって、わたしと目を合わせずに帰ってしまった。 せつなちゃんはあんなに嘘が下手な子だったかしら。なんて、わたしも言えないよね。ずるい。ところでせつなちゃん、わたしがブッキーって呼ばれることは気にしてくれないんだね。わたし、ちょっと寂しいな。 「ねえみきたん」 「へ?」 カオルちゃんのお店で、ラブとブッキーを待っている時、試しに呼んでみた。すると、美希は変な声を漏らし、目を丸くして私を見た。その後、目を細めて睨みながら、 「せつなぁ~? さては、ラブの入れ知恵ねぇ~? まったく」 そう言って苦笑した。私は美希の向かいの席についていて、向かい合っていた。 やっぱり違う反応をするのね。これは出来レースだった。 「そんなことないわ。でも私も、みきたんって呼んでもいい?」 「ええ? そうね……。いいわよ?」 目を逸らしてそう言った美希の迷いが、私にはよくわかった。 私は嫌な顔をしていないだろうか。 「美希、ごめんなさい」 「え、ナニ?」 美希は訝しそうに私を睨んでいる。少し怒気も感じられる。悪ふざけが過ぎたかもしれない。 「冗談なの。美希、ごめんなさい」 「そう。せつな、貴方……。いえ、いいわ。許してあげる」 そして、会話は途切れた。 一緒にいるときに会話がなくても、苦に感じるような関係ではない。けれど、自分の撒いた種が、美希を、不幸にしてしまった。しあわせのプリキュアが聞いて呆れる。本当に嫌な子だ……。 みきたん、突然せつなにそう呼ばれた時のアタシ、完璧からは程遠かったわね。ハトが豆鉄砲を食らうってのがぴったりだったわよ。 ラブの入れ知恵、だったらすごいわね。効果覿面だったわよ。 でもそれだと、まだラブがいない今言ったのが腑に落ちないわね。ラブが面白がりたいなら、タイミングは今じゃなかったはず。 それなら、アタシをせつなが、からかっただけか。 でも、それだと、せつなのこの落ち込み方は異常だわ。しかも泣きそうになってるし。 ああもう、なんなのよ。アタシがせつなを泣かせたわけ? 泣きたいのはこっちよ! これは、そう、ラブのせいよ。間違いないわ。ラブがせつなに何か言ったのよ。アタシはラブのとばっちりを受けただけなのよ。アタシはせつなの八つ当たりにあった。それだけ。 あれ、それだとアタシ、惨めじゃない? 泣きたくなってきたわ―― わたしは遠くから二人を見ていた。遠目にも明らかに空気が重くなっていた。 (せつなちゃん、美希ちゃんにも聞いちゃったのね……。 やっぱりわたし、ちゃんと答えておけば良かったかしら。でも、わたしは美希ちゃんじゃないし、勝手なことは言えなかったんだもの。言いたくなかったんだもの、わたしの口からなんて。 そうよ、二人を、いいえ、三人を振り回す、ラブちゃんが悪いのよ。こうしてわたしの足が止まっているのも、ラブちゃんのせいなの) その時、二人より更に向こうから、走ってくる人、ラブちゃんが見えた。 同時に動いた二人、いいえ、三人に助け舟を出したのも――わたし、信じてた―― 「せつなー! お待たせー!」 「ラブ!」 「あ、ブッキーもまだだったんだ。なら走んなくてもよかったかー」 「ラブったら、もう」 「ちょっと待ちなさい、ラブ。アタシもいるんですけど?」 「ん? どうかした~? ウソウソ! ごめんね、みきたん、冗談だってばぁ~」 「はぁ~、ラブのせいで、いえ、なんでもないわ」 「うん? あたしのせいで何? ナニ?」 「なんでもないったら!」 「ぶ~! なによ~? みきたんのケチー。あ、ブッキー!」 「ごめんね、遅くなって」 「あたしも今来たとこだよー」 「ラブはブッキーに感謝しなさいよ」 「なんでラブちゃんがわたしに?」 「さあね」 「もう~、みきたん~、ごめんってばぁ~」 「まったく、ラブったら」 「なに? せつな」 「なんでもないわ」 「も~なんなの? みきたんもせつなも、あたしに言いたい事でもあるわけ?」 「ねえラブちゃん、やっぱりそうなのよね?」 「ブッキーも? なにが?」 「ううん? なんでもない」 「うわーん! みんながあたしをイジめるよー! カオルちゃんたすけてー!」 「新作、甘酸っぱいドーナツでも作ろうかね。あ、犬も食わないか」 少女たちの無邪気な笑顔をドーナツの輪から眺め、カオルちゃんも笑った。 一番わかりやすいのは、ラブちゃんだと思っていたの。でも今は違う。プリキュアになって、せつなちゃんと出会って、気付けば一番わかりにくくなっていた。 一番わかりやすいのは美希ちゃん。感情を隠すタイプでもないけれど、不器用よね。 せつなちゃんだって、直接的に感情を表に出すことは無いけれど、わかる方だと思う。 わたしは、引っ込み思案だし、感情を表に出すことは少ないかな。わかりやすいのかもしれないけれど。自分ではわからない。 問題はラブちゃんだ。最近はどんどんわからなくなってきている。 昔から皆のために一所懸命で、自分は二の次みたいなところがあったけれど。ラブちゃんは、自分のことには特に鈍感で、結構なドジっ子のはずだった。 でも最近、皆の心情を一番理解しているかのような言動が多くなった気がするし、すごく驚かされたことも何度かあった。 ラブちゃんだけが、先に成長してしまったみたい。 以前は姉であることもあって、美希ちゃんが大人っぽく見えたものだったのにな。 ラブちゃんにわたしの知らない秘密でもあるのだろうか。 あ、もしや、大人の階段のぼっちゃった、とか。 でも、大輔君とは付き合ってないはずだし、付き合ってたらすぐ広まるはずよね。それにあの二人、ちょっとそれとは違うのよね。特にラブちゃんが。 じゃあ、相手は、せつなちゃんかな。一番近いし、強い絆も本物よ。どっちから行くのも十分ありえるわ。せつなちゃんの暴走って線もいいわね。でも、そうなったらわかりそうなものよね。特にせつなちゃんで。 それだと、いいえ、美希ちゃんは無いわ。わたし、絶対に気付くもの。わたしだけでなく皆気付くわ、きっとね。それぐらいわかりやすいと思うの、美希ちゃんは。それにヘタレの美希ちゃんから行くことはないし、ラブちゃんは影でこそこそしないはず。 そうだわ、ミユキさんの可能性もあるわ。憧れも紙一重よね。ミユキさんもラブちゃんのことお気に入りみたいだし。でもでも、ミユキさんもそこまでわかりにくい人でもないわ。 ラブちゃんの相手、もしかして、わたしのことが、好きとか。ああでもこれだと階段のぼってないわ。身に覚えが無いし。 ラブちゃんは誰が好きなのかしら、どれも十分ありえるわ。あ、まさか二股なんてことも。全部の道もありかしら。どれも捨てがたい選択肢よね。迷っちゃうわ。 あれ、なにを考えていたんだっけ。そうそう、ラブちゃんが読めないのよ。 (ブッキーの表情、今日はやけにころころ変わるわね。面白いわ) (ブッキーったら、途中から話に加わらないと思ったら、なにを百面相してるのかしら。でもなんだろ、触れない方が良いって、アタシの中で警報が鳴ってるわ) (ブッキー、またやってるよう……。はやくなんとかしないと) 最近、ブッキーがあたしを観察しているんだよね。 いわゆる見つめてるってあれじゃないんだよね。それはそれで困るんだけど、でもその方が嬉しいかも、なんて。 だって観察なんだもん。観察。ひどいよブッキー。あたしを何だと思っているの! うーん、せめてもっとさりげなく見てくれないかなあ。いや、それもなんか変なことになってくるよ。 試しに観察し返した日には、みきたんとせつなまで挙動不審になってしまったし。 まったく、どうしてくれようか。 いやあ、最初につっこみ入れておけば良かったのにな。もう今更な感じで、タイミング逃しちゃったままだよ。 やっぱり、直接聞くしかないかなあ。でも絶対ごまかすよね、ブッキー。 こうなったら脅しにかかろうか。ばらしますよ? とか、もらいますよ? とか。うばいますよ? もありかな。 でもブッキーもこわいんだよね。幼稚園の時に―― 「ちょい待ち! ピーチはん、それ以上はほんまに堪忍してや」 そうだね、知らない方がいいこともあるよね。 近頃どうも、せつながつっかかって来るのよね。 アタシ、何かしたかしら。からかわれた覚えはあっても、アタシからせつなに何かした覚えはないわよ。 ラブみたいに、面白がってるだけには思えないのよね。 そういえば、ラブをからかうことはあるけど、ブッキーをからかうことはないわね。ブッキーには遠慮してるだけか。それとも、あ、考えるだけで寒気が。 あれ、ラブもいるときは、アタシをからかうことは無いわね。ラブも一緒にからかってきたら、余計に立ちが悪いから、別にいいんだけどね。 なんだろう、何か意味があるように思えるんだけど。せつなはラブに話しかけることが多いから、それだけのことかしら。でもせつなは、ブッキーとも結構話してるし、アタシとだってタコ以来は。 アタシにつっかかってるところを、ラブに見せたくない、とか? あれ、アタシ、何を苛立っているのかしら。せつな? ラブ? ブッキー? それとも 「ミキ、ワラッテー」 アタシ、シフォンを抱きしめたままだったわね。ありがと、シフォン。アタシ駄目駄目だわ。 「ねえラブ?」 「なに? せつな」 寝る前の一時、私はよくラブとおしゃべりしている。今はラブの部屋。学校の話が一段落ついたところだった。 「私には、あだ名、つけてくれたりしないの?」 「せつなにあだ名ねえ~、愛称のことね」 「ええ」 本当に愛称が欲しいわけではない。けれど、興味が沸いた。 「う~ん、あ、せっちゃんがあるじゃん!」 「それは、ちょっと違うわ。お母さんとお父さんにそう呼ばれるのは嬉しいけれど」 二人の微笑が思い浮かび、じんわりとしあわせを感じた。 「やっぱり? じゃあー、せつなたん!」 「せつなたん……。なんだか言いにくいし、しっくりこないわね」 それと、一緒なのが、嫌。でもこれは言わないわ。 「う~ん、あ、せったん!」 「混ぜてきたわね。うまいこと言ってるようだけど、愛称って感じではないわ」 これは冗談なのだろう。流しておこう。 「むむむ、よし、ガッシー!」 「ブッキーはかわいく聞こえるけれど、ガッシーはそうでもないわ。どして?」 これも冗談よね? ラブ? 「どしてかな~? 他か~。おお、イースたん!」 「イースたん、か。そうね。文字だけ見ればいいかもしれないわ」 「ごめん」 「やめてよ。謝るとか。気を使ったりしないでね」 そう、私はイース、だった。私がイースだったことも、人を不幸にしたことも事実。 否定しない。否定してはいけない。私は教えられた。 それも背負い立って、今度はプリキュアとして、皆のしあわせを守ると決めた。 イースだったのは私。イースは死んだ。生まれ変わった私はキュアパッション、東せつな。 もちろん償いもある。でもそれだけじゃない。 私にやり直せばいいと、私がしあわせになってもいいと、言ってくれた。 私がしあわせになることも、しあわせだと言ってくれる人がいる。 しあわせになって欲しい人たちのために、私もしあわせにならなければ。 「うん……。ねえ、せつな」 「なあに? ラブ」 「せーーつなっ?」 「だからなに! ラブ?」 「せっつなー!」 「もう! ラァ~ブゥ~?」 貴方の笑顔が、私を笑顔にする。私の笑顔は、貴方を笑顔にするだろうか。 ラブのように、私は、笑えているのだろうか。 今はまだ、そんな自信はない。ずっと自信なんか持てないかもしれない。 でもね、ラブ。聞いて、ラブ。私はもう、迷わない。だから、 「ねえ、ラブ」 私、精一杯、頑張るわ。 Fin